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第5次 精神医療 第13号

特集 精神科における医療の質

[責任編集] 中島直+古屋龍太

 精神科医療・保健・福祉の改革は、何が目指されるべきなのか。実は、なくすべき実践は語られている。長期入院、強制入院、拘束、多種多剤、等々…。障害者権利条約や国際連合の障害者権利委員会の総括所見は日本の精神科医療を全否定したかにみえる。指摘は真摯に受け止めなければならない。しかし、それだけでよいのか。こうした議論に直面しつつ、もっと考えるべきことがあるはずだ、と違和感を持つ人は少なくないのではないか。日本の精神科医療においては、救急、合併症、児童思春期、依存症、行動障害の顕著な例、犯罪歴を有する例、多問題事例など、行き先が見つからず医療を受けられない者も多い。存在する「不適切なモノ」を切り捨てることも重要であるが、存在する「適切なモノ」を残し、未だ存在しない「あるべきモノ」を創出していかなければならない。そう考えていくと、患者が安心してかかれる良質な精神科医療をどう創っていくのか、ということに行き着く。誠実であろうとする実践者は、滝山病院の報道に怒りを覚えるが、自らの行っていることと彼の地でのそれは、実は連続的に連なっていることを意識せざるを得ない。一線を画することができるとしたら、それは医療の質による評価をもってしかないのではないだろうか。

 実は精神科以外では「医療の質」は論じられている。癌の「5年生存率」を各医療機関が公表している。日本医療機能評価機構や、「医療の質・安全学会」という学会、厚生労働省の「医療の質の評価・公表等推進事業」もある。精神科はどうか。日本医療機能評価機構は精神科病院でも「評価項目」を設定しているが、精神科に直接関係しないものも目立つ。大阪精神医療人権センターは「医療の質・安全学会」の賞を受けたが、同学会の精神科に特化した項目の扱いは他にはほとんど目立たない。例外的なのが全国自治体病院協議会で、精神科に特化した指標を定めている。また、日本精神科病院協会もセルフレビュー(自己評価)を作っているが、これは公開を前提としていない。

「医療の質」の評価に当たっては問題もある。指標の選定の仕方、患者の重症度などの考慮、公表された数値のみに惑わされないか。また、目的は個々の病院における医療の質の改善であり、病院間の比較・ランク付けではない、とも指摘されている。

 本特集では、「精神科における医療の質」を扱う。これまでの議論の紹介や、それぞれの立場からの見解の表明を得て、今後につなげていければ、と考える。

《目次》【巻頭言】中島直/【特集】[座談会]精神科における医療の質…来住由樹+髙橋智美+中島直+古屋龍太/[論文]北村立+高木昭午+山本深雪+岡田久実子+星丘匡史+川村有紀+吉野賀寿美/【連載・コラム等】[視点]「宮城県立精神医療センター新築移転問題」原敬造/[連載コラム]「精神科医をやめてみました 第4回」香山リカ/[連載]バンダのバリエーション〈13〉塚本千秋/世界の果ての鏡〈3〉太田裕一/[リレー連載]精神科病院に風を吹かせる弁護士たち(第7回)愛須勝也/[紹介]『日常臨床に生かす精神分析2―現場で起こるさまざまな連携』西尾美和子/『精神科診断に代わるアプローチPTMF』金田礼三/【編集後記】古屋龍太


2024年4月20日刊行 ISBN 9784904110379  (税込1,870円)