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第5次 精神医療 第12号

特集 世界の精神医療-国連障害者委員会の総括所見をうけて-

[責任編集] 佐竹直子+岡崎伸郎+古屋龍太

 「日本の精神医療は諸外国に比べて遅れている」という常套句に私たちは慣らされてきた。しかし実は、日本の精神保健医療制度のどの部分が、どの国と比べてどのように遅れているのか、あるいは不合理なのか、ということをよくは知らないまま嘆いているのである。

 例えば非自発的入院の仕組みがどうなっているのか、権利擁護やアドボカシーの仕組みがどうなっているのか、日本の専門職が留学したり見学したりすることも多い欧米のみならず、アジアの隣国の状況もよくは知らないのである。

 日本が突出していると指摘されて久しい非自発的入院期間、非自発的入院率、身体拘束数、これらが他のどこかの国で少なく済んでいるとするなら、どのように取り組んだ結果そうなったのか、あるいはどこかに統計のマジックのようなものがあるのか、明解に示す情報が少ない。そもそも一般的な精神医療にかかる医療費が高いのか安いのか、保険診療の仕組みがどうなっているのか、生活保護で医療費をどこまでも賄う制度は日本独特のものなのか…そうした基本的なところもよくわからない。ことは一概に日本だけの不合理とも言えないような国情や国民性の違いも関係しているのではないかと漠然と考えることもあるが、立証するには程遠い。

 そうこうするうちに、2022年夏、先に批准した障害者権利条約の日本での履行状況を審査した結果が、国連障害者委員会の総括所見(勧告)として公表された。これは日本政府にとってはまことに厳しい成績表で、関係者にも大きな衝撃を与えた。精神保健福祉法も成年後見制度も障害児の特殊教育制度も、「障害のみを理由とした差別的な制度であり条約に適合しない」として軒並みダメ出しされたのである。

 ここで私たちは、無反省に自虐的になったり防衛的になったりする前に、他国は国連からどのような評価をされたのかを冷静に見てみる必要があろう。

 国連から問題点を突き付けられたことを好機ととらえ、世界の状況を学ぶことで日本 の制度改革につなげられるような特集としたい。

《目次》【巻頭言】佐竹直子【特集】WHO精神保健福祉政策責任者来日講演(Michelle Funk)/オーストラリア(松本真由美)/ベルギー(澤口勇)/カナダ(佐竹直子)/国連障害者委員会の諸外国に対する勧告(森川将行)【連載・コラム等】[視点]看護師の特定医行為(内田宏貴)/[連載]バンダのバリエーション(第13回)塚本千秋/[リレー連載]精神科病院に風を吹かせる弁護士たち(第6回)伊藤俊介/[連載コラム]精神科医を辞めてみました(第3回)香山リカ/連載「世界の果ての鏡」(第2回)太田裕一/[紹介]『精神障害を生きる―就労を通して見た当事者の「生の実践」』古屋龍太/[紹介]『認知症のひとのこころを読みとく』望月清隆/[編集後記]古屋龍太


2024年1月20日刊行