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精神医療 第6号

特集「依存症治療の現在」

[責任編集] 太田順一郎+熊倉陽介

 依存症治療の分野でいくつかの変化が起きている。例えばその1つは、アルコール依存症の治療目標として断酒のみにこだわらず、節酒・減酒を治療目標として再評価しようという方向性である。2018年に出版された新しいガイドラインでは、アルコール依存症の治療目標について、「断酒」だけではなく条件付きではあるが「飲酒量低減」が明記されている。以前からこの領域では、治療目標に関する議論があった。しかしその多くは「アルコール依存症という診断は、コントロールを喪失した飲酒状況に陥っていたことを示しており、一度コントロール喪失飲酒に陥った人は、コントロールされた飲酒を回復することはできない。」という結論に終わっていた。そして「節酒・減酒」が治療目標として正面から取り上げられることはあまりなくなっていたのだが、ここ数年事態は明らかな変化を見せている。

治療対象の拡がりも近年の変化として挙げて良いだろう。かつては、精神科で診ている依存症といえば「アルコール、覚醒剤、有機溶剤」であった。そして近年少なくなった有機溶剤の代わりに私たちの前に現れたのが、処方薬、OTC、脱法ハーブ/危険ドラッグ、そして大麻の依存/乱用であった。ただしこれらはいずれも精神作用物質の依存症であり、一方で近年「治療対象の拡がり」として注目されているのは、「行為依存」と呼ばれる一群である。行為依存症の対象となる「行為」にはギャンブル、ゲーム、買い物、万引き、食べ吐き、自傷、セックス、恋愛、などが挙げられるが、その中で現在最もポピュラーなのはギャンブル依存症である。ギャンブル依存症に関しては、従来の物質依存症の診断・治療の考え方や治療技法が援用できる部分が多いが、例えばICD-11においてギャンブル障害と並んで行為依存症の代表として診断基準に取り上げられることとなったゲーム障害に関しては、これまでの物質依存症の治療技法や疾患理解がそのまま援用できるか、というとそれは疑わしいと言わざるを得ない。

次号の特集では、以上のような依存症治療における治療目標の設定や治療対象の拡がりなど、現在依存症臨床の現場で起きていることを中心にして、依存症治療の現在を捉え直してみたい。

【目次】

[巻頭言]太田順一郎/

【座談会】松本俊彦+渡邊洋次郎+太田順一郎+熊倉陽介(司会)/

【特集論文】宇佐美貴士/長徹二/角南隆史/関正樹/高野歩/Selim Gökçe Atıcı/

【視点】加藤雅江「子ども家庭福祉分野のソーシャルワーカーの動向(仮)」/

【コラム】吉池毅志/


刊行予定: 2022年7月20日