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第5次「精神医療」第18号

特集 地域における生活支援―相談支援の質を問う

[責任編集] 古屋龍太+吉池毅志

 

 かつて地域での生活支援を担う社会資源も乏しく、病院が患者を外来で丸抱えしていた時代があった。地域での支援に係る制度も何もない時代、志ある人びとが仲間と手弁当で、地域に住む場や集う場、活動して暮らす場を創っていった。経済的基盤もないために、多くの場が継続に難渋し苦しい運営を迫られていたが、パイオニア的実践から新しい支援哲学も編み出されていった。時を経て、やがて法律も変わり人びとの意識も変化する中で、「精神障害者福祉」が実践として定着していった。さらに時を経て、「障害者福祉」に包摂されていく過程で、制度は一時期猫の目のように混乱したが現在の姿に落ち着いた。周回遅れと考えられていた精神障害者福祉も、いつしか他障害と同様のシステムの中で定着し、今日に至っている。

 障害者自立支援法から障害者総合支援法に至る過程で、現場の環境は大きく変貌した。障害福祉サービス等報酬が設けられ、資金力を有する営利企業が多数参入し、従来の社会福祉法人、非営利活動法人の数を圧倒的に凌駕していった。事業成果に基づいて報酬の多寡が決まるインセンティブの導入で、より効率性の高い支援業務が追求され、現場での事務作業も増え、利用者と丁寧に向き合うことが難しくなっている。業務を早く、多く回すことを求められる中で、職員の多くが疲弊し、多様な支援実践の展開が難しくなっている事業所もある。

 サービス提供の際のケアマネジメントを担う計画相談支援では、本人の意思や希望、生活の目標を核に構成されるが、多くがフォーマルなサービスの当てはめに終わり形骸化しているとの指摘もある。地域における日常的な生活支援の核となる基本相談支援も、事業所によっては金にならない支援として敬遠する向きもある。人材確保も難しく先の見えない中でM&Aに事業譲渡して消えていく小規模な法人も数多ある。

 一方で、現行の報酬制度の中で業務改善を進め、これまでにないピアスタッフとの協働による相談支援事業や当事者主導の事業所展開を果たしているところもある。従来の福祉的支援の枠を越えて、効率化を工夫し収益を上げながら、新しい地域生活支援の形をマネジメントすることが志向されている。そのような新しい支援の形を、どこもが真似できる環境にある訳ではないが、地域における新しい相談支援の展開と支援哲学に学ばなければならい点も多い。

 本特集では、地域における生活支援の理念を改めて検証しながら、現在の制度下での相談支援の課題を明らかにする。相談支援の質を向上させるためには、何に取組むことが必要なのか、どのような哲学と方法を共有していく必要があるのかを検討したい。厳しい時代状況の中で活路を見出そうとしている事業所からの実践や、相談支援の質を向上させるための取組み実践も収載したい。また、サービスのユーザーたる当事者からみた相談支援の評価を取上げられればと思っている。地域における相談支援にどのような未来像を描くことができるか、読者とともに考える契機となればと願っている。

≪目次≫【巻頭言】古屋龍太/【特集】[座談会]地域生活支援の現在―相談支援に焦点をあてて…伊藤善尚+牟田玲衣+金子百合子+舘澤謙蔵+古屋龍太/[論文]鈴木卓郎+知名純子+兼浜克弥+萩原浩史+南部達也+山本幸博/【連載・コラム等】[視点]地域医療構想に精神科医療…木太直人/[連載コラム]精神科医を辞めてみました〈9〉香山リカ[連載]バンダのバリエーション〈18〉塚本千秋/[連載]世界の果ての鏡〈8〉太田裕一/[リレー連載]同人のいる風景〈4〉那須典政/[書評]『精神医学ソーシャルワーカーの「かかわり」論―長期入院精神障害者の退院支援における関係を問う』井上牧子/[紹介]映画「どうしたらよかったのか」藤居尚子/【編集後記】吉池毅志

                        


2025年7月20日刊行予定